俳句
  
無季










いっせいに出たチューリップめめめめめ  雪解けの音はヴィオラを弾く音  白梅が飛行機雲の通りみち  見上げれば真珠掲げる梅の枝  梅咲いてかやぶき屋根の寝癖かな  春光や瓦のふちを流れ落つ  春一つ見つけて首が取れちゃった  春休み午前十一時のホルン 町を抜け雪解水は塩辛い 瞳孔のちぢむ泥道春の道 看板の娘は転んだか春スキー 理数棟人文棟に木の芽雨  身動きが取れずに食む子雛あられ   日曜のドラマ終わって雛納 浅蜊汁 皿へカチンと積もる蝶 保育園チューリップとは柵のよう    春分の日や新聞を繰る幼児 春雨や波紋に隠る野の魚  駆け上がる気無くてらてら春の雨  初桜脚立を延ばす天袋 花篝ぱちりとはぜるフラッシュ音   篝火草ビニルハウスに城の廊  ブランコに乗ってけとばす向かい風  何の徳積んだだろうか花吹雪  桜さくひとまず届きそうな雲 花びらを地へ貼り付ける糊の雨 ものの芽や あのぬいぐるみ何故捨てた  アスファルトへ熱をとどけよ雪柳  ミモザ咲く庭の住人うろうろと  たんぽぽのはじけるうまさウサギ小屋  舟をのむ波 北斎のレタスかな  草萌えに落ちる冷たき人の影  畦青む運動靴を持ちあげる  麦青むボタンなくして一週間 春荒し山々の毛をくすぐりつ 空き地には小山 ぺんぺん草ジャック  ホトケノザ吸って鳴らしてプッと吹く  のびてのびて眠たくなったキュウリグサ   春の夕 笛の音 オドリコソウの森 いつだって寝ころんでおり桜草 柏餅 伸びる人指し指小指  長靴を履いた仏と春の露 耳かきをします寝ころべ春の富士 うんていの影のむらさき藤の花 春動く車にリードと首輪付け  マネキンの鼻筋とおる春ショール  温泉郷バックミラーに春の富士 凛として空気に響くかすみ草  ピアノでも開けてみようかライラック 青き踏む靴はマジックテープかな はなみずき学ラン殿は空きっ腹   ぬくぬくと暮らし空豆 皿の上  行く春やフローリングを抱いて寝る   トラックの音耳に付き春近し
梅雨寒やサドルで虫が死んでいる アコーディオンたっぷりのびて夏至の夕 鉛筆の先に新緑我に帰りけり  桜桃の茎こころざし様々に 炊煙をくぐって落ちる若葉雨 天気雨空に祝福される傘   一筆をへそに付け居り夏蜜柑 夏始め肘まですすぐ庭仕事 ざの音が似合うキャベツをこぼしけり  平面にせなかを晒す錦鯉 提灯の空よラムネににむせている 山道の蛍袋に息もらう  石塀で肌は傷つく夾竹桃 逆さまに運ばれていく子蟷螂 玉葱をうらがえしたら男の子 十二巻だけ失せ果てて梅雨曇 荒梅雨や心行くまで眠る人 花栗の香り話は変わるけど 早苗月いなか少女の武勇伝 後継ぎのいない家から今年竹 もうあの子三年生か花胡瓜   初々し心変わりの黄あじさい   夏来たるくぐりたき雲あらわれる   眠れないこの身うずめよ芥子の花   日盛りや黙々変わる信号機   夕闇にぎろりおしろい花の赤   ワンピース生活用品ひきずって   炎える街戸をぴったりと閉めた洞   扇風機ゆずった人にじわり汗   えいやっと時計を見るや昼寝覚 ばしばしと団扇戦う風呂上がり   アイスコーヒーと見えないコースター 湯気の立つ味噌汁睨む溽暑かな   苔茂るばあばの部屋の棚かざり   ちりちりと焼ける洗濯物ましろ   すだれ背に乗せて逃げたる日差しかな   洗濯物畳めば軽し夏の服   紺の息吸い込んでいる茄子の花   稼ぐ手のだらり垂れたる涼みかな   しみあれば朝露だのみ白い薔薇   リビングに転がる浮き輪はしゃぐ子ら   妹のプールバッグがしょげており   まっ白なまま帰ってく捕虫網  浴衣の娘きょうはどこかで祭りらし 白猫の毛に色映す花火かな   野良猫も共に見ている花火かな   蝿とべば一輪挿しが目を回す   ぷつぷつと苺の手して苺摘み   罌粟咲くや秘密はけして守られない  雷のあと追いかける新幹線   雲海の波間に光る竜宮城   人間の世界に戻れと青田風   「まあまあ」のリズム白鷺ちょいと逃げ   振りまわす犬の引き綱 夏の月   籐椅子に獏の寝ている海のゆめ   口をパクつかせコンビニのアイスかな  キャスターを押していく人風光る 庭へ出て夜空におよぐ鯉のぼり  下書きが消えてよかった春の宵
指の間に髪梳くごとく猫じゃらし   休み明け正気に戻る五時限目   秋浅しセミを避けて行く一輪車   一頭になり流れたり鰯雲 最大手さいおおて撤退をして秋の蝉  栗ご飯かがやきを増す炊飯器  失敗はまぁそれとして豊の秋 むくむくと母肥えるなり九月場所   秋風やバドミントンの羽はしゃぐ   我が肺に宿れ白露 草の呼吸いき   にぎやかな方へ方への秋桜   天高くどうどう雲はしぶきあげ   オレンジの花咲いて我秋生まれ   くたびれたテニスボールを抱く紫苑しおん   しずけさや落葉へ向ける猫の耳   秋興や猫は何処にも住んでいる  飛蝗ばったらの邪魔をしながら行く野道   根っこごと抜いて分けあう相撲草 鬼灯ほおずきをつつきつ祖母は薬飲む   生きていりゃ毎日お風呂 墓に水   武蔵野の芒なでたる富士の腹   通勤の頭上を飾る曼珠沙華 ピーマンの種を取り去る息止まる 露草は目薬の青 通学路 露草に遊ぶ信号変わるまで   赤蜻蛉サービスエリア宵迫る   玉蜀黍とうもろこし 胸詰まらせる子が食らう    青蜜柑若い時まで召し上がれ   大いなるものの膝上 山錦   秋うらら中間テスト風に舞う   秋空や小鮒になって泳ぐヘリ 天高く無駄な本ほどおもしろい  秋うららスノコは足で鳴らすもの 生け垣にかくれるほどにお月さま   自販機に行って戻って良夜かな   満月と逆さへすべる影法師   客行って廊下に柿の袋かな  名月やムズムズするは親知らず   ベランダに落ちる不器用 秋の雨 虫籠のわきを動けと叩く子ら   コオロギをついばみハトの恋の歌 風を避け置くカマキリの宿る鉢  野分して揺れる受話器のコードかな  秋冷に逢うて科学の謎深し   うしろにも影ができるよ今日の月 今日参り明日去る町に添水そうず鳴る   雨音のやけに弾んだ無月かな   失ったもの囁くな秋湿り 稲雀 藪へ帰っておすましさん   野分して受話器のコード揺れにけり  デパートの地下に秋果の曇りあり   たちまちに皿とナイフを呼ぶ林檎   現代をわきに葡萄の皮を積む   生姜しょうが摺る 高き低きは無くなれと   Tシャツが切ながってる風の色   起き上がる気配はなくて草紅葉   ゆめ人はイチョウ吹雪のなかにいる   落とす葉を抱えまんじり大イチョウ   降将の兜つたって秋の露   ナナカマドぶらさげている夕日かな   うそ寒がタオルケットに巻き付いた 人などはトンと関せず流れ星  人の夢々たなびくや朝の霧  風避けて置くカマキリの宿る鉢  台風が去ってお空にあばら骨 客行って廊下に柿の紙袋 あさがおの首すじ撫でて冬来たり   
霜柱光る畑が呼んでいる   つっかけで踏んで冷たい霜柱 雪合戦車に残る手の長さ 毛糸編むお茶に二度立つ四度立つ   4歳の私の上に降らぬ雪 駅前の時計うっすら 暮れ易し   暮易く生徒追い出す教師かな 虫老うや棚と化したるスピーカー   はまぐりに成れず水辺に冷えた雉   膝掛の娘行きかう廊下かな 水鳥がカラス見上ぐ池の淵   犬の毛をちょっとつまんで冬近し   温石おんじゃくを抱えて向かうWindows   キーボード 手元に集う真冬かな   寝酒しておちょこ転がる枕元   ビルの街 凩一号出撃す   縄跳や地伏し泣きたい子もあって   腹くちくワシは翼を折りたたみ   けんちんの湯気立つ朝にとけていく   日向ぼこ窓のかたちに犬と猫   ぼんやりと結露の窓や冬の塾   神様の戯れポインセチアかな   楽しきは吾子とならべる猩々木   青い絵本ひらき異国のクリスマス   焼き鳥やそろって点呼取る兄弟   セーターや首をうずめてぬくまって 居残りや橙色の冬木立 穴施業知らぬでいいよ人の行 人生を総括しがち夜話しす 粥施業思考を止めてテレビ前 冬影が覆いかぶさる児童かな   カーテンを開け目があった雪女郎 大雪やキュウキュウ詰まるカレンダー 寒卵兄のすするを弟 見 からっ風 ウサギぼうしの横っ跳び ipodなぞるたび止む煤払 一年に黒塗り込めよ日記買う 初夢を味わいながら餅を噛む 年新た 犬は毎日生きる目を 手毬唄キャベツでホイして母笑う 糸つたう凧の涙やおっかねぇ 松下ろし洗濯物が揺れている 七日から部屋に伏したるままの本 雪掻きをしきれず車南下する あくびして信号待ちの息白し 身を投げて何に捧ぐや寒椿 自転車にまたがり仰ぐ凍星や 前かごに落ちる夜明の天狼星 凩になされるままで風見鶏 湯冷めして温かい猫あくびする 室の花三代前の椅子のうえ 蝋梅の香りと短かい挨拶を 雪景色道をつくって歩くひと 寒鴉かんがらす 埋もれまいぞと黒くあり ツヤツヤの車見返る冬鴉 雪合戦 背でボコボコ鳴っている 残り雪つまさきで蹴る寒い午後 凍てついた雪に歯立たぬあかい指 葉牡丹や蹴られる程の位置にあり 春遅し今に切る髪切った髪 集会所出てちくしょうめ余寒かな 二ン月はコンクリートの穴の中 二重とび跳べたらじきに春でしょう 家が建つ風が冷たい家が建つ 手のひらの冬ときほぐす湯呑みかな ちんたり行こう家族の初詣 雪合戦 車に残る手の長さ 無季
屋上の手すりに染みる物想い 日が暮れるほど実りゆく白い月 直角に水がまがってビルの街 自転車でつっこむちぎれ雲の影 雨降れば庇の奥の植木鉢 季の移り微熱を出した曇り空 指先が痺れるほどに怨んでる 熱帯魚イエスはイエスノーはノー おにぎりの雲が転がれり山の峰 青春のやさいは包丁から逃げる トビウオになってみたいな人の波 おめでとう自分の肩はトンと突き えもしれぬ正義のために泣く子かな つかまってやけに嬉しい鬼ごっこ おんぶおんぶ ねだれば下りてくる背中 振り向けばあの子とあの子の影法師 土花は枯れ 切花は崩れてく 木星や もうガリレオはいないけど 落日を見ればまつげに虹かかり とぶ前に消えて「キャハハ」のしゃぼん玉 大熊座秋の七草セブンアイ 秋の日にふっと蒸発せし風鈴 うしろにも影ができるよ今日の月 新芽出る秋とか知ったことじゃない 枯れたいも言わず枯れてく草木かな 玄関の靴そろってた あまり菓子 ろんろんと耳も朱にせで説かれおり パソコンの呼気や遠くに滝がある コンポストあれの皮やらこれの皮 真夜中の冷えた指さき 毛布星 星空やごろりごろりと米を挽く 月の出てみかづきさかづき満ち満ちよ 寒空にびゅうと湯気はく炊飯器 冷たきを取っては顔に当てる夜 熱出して背にアルカリ乾電池 夜中には黒い氷が張っている プレゼント開ける一分受け取って 眠れない夜の気まぐれ神にキス 剥がされた夜の電柱 からす鳴く 日本刀切っても切っても向かい風 月光を冷気に変えるクロロフィル ルーキーのヒール靴ずれ赤信号 バイトとは先輩に会うことらしき 熱くなる耳に両手が髪を掛け あさがおの首すじ撫で冬来たり 荒川や西方に照る国をよけ 日本画に思いを馳せよ満電車 雨の日の考え事にベンチ無し 水切りの石が沈んで12年 たそがれや池の中から蝉の声 人生で何回「そう」というんだろ さて君が起きてくるまで寝てようか 曲線がなつかしくって家を出る とびでてるサビ釘を打つ雨てんてん


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